【著者に訊け】原田宗典氏/『〆太よ』/新潮社/1800円+税
「英文学者の福原麟太郎は、本は一冊読み終えることが読書ではなく、読んでいる時間が読書なんだと言っていて、僕もそう思うんだよ。つまりその時間が面白くなければ、次の本へ行けばいい。読み始めたら、文章にドライブ感があって、ずっと読んでいたいとか、読んだ人がいい読書の時間を過ごせるものにしたくて、僕はこれを書いたんです」
原田宗典氏(59)の最新小説『〆太よ』である。主人公は学生時代に〈西田さん〉という自称遊び人と知り合い、以来麻薬漬けの毎日を送る、〈東洋一(ひがしよういち)〉25歳。ある時、新宿のバッティングセンターで〈鈴木〆太(しめた)〉という盲目の青年と出会う。洋一は自身を〈日本にたった一人しかいない戦士〉と名乗り、〈おれ自身の真実〉のために闘うことを、友となった〆太に誓うのだ。
舞台は阪神淡路大震災やオウム事件に揺れた1995年前後。著者曰く「世紀末の『ライ麦畑』」である今作は、主人公のめくるめく思考が美しくさえある境地に読者を誘うジャンキー小説にして、極上の恋愛小説、青春小説でもあった。
帯に「構想20年」とある。
「洋一が哲学めいたことをあれこれ考える前半部を書いたのが20年前。その時あんまりうまく書けたもんだから、怖くなっちゃって。そんなふうに考えるのは鬱っぽくなってる証拠なんだよね。ようやく5年くらい前から、そのまま捨てるのが惜しくなって続きを書き始めたんです。正直、よくぞ諦めなかったと、自分でも思います」