〈人間はみんな違う一人ずつ全部違う〉〈だから違うという意味において同じなんだ〉〈自分は多数派に属しているからと思って安心してるなんてお笑いだねそんなもの単なる幻想に過ぎない多数派なんてありえないんだ〉〈本当に有効で意味のある境界線はたった一本しかないそれは自分か自分以外の人間かという境界線だけだ〉〈誰かを愛する場合にもこの境界線がはっきりしてないと結果的に自分を愛しているだけだったりするんだよ分かるだろ〉
洋一も、落伍者なだけに見えるものがあり、〆太との友情や香との恋も、生々しいからこそ純粋だった。
「登場人物たちはクズはクズだけど、本書に引いたブランキー・ジェット・シティの楽曲のように、真っすぐ曲がって生きている彼らのビート感を今作で感じてくれれば御の字です。僕の理想は水みたいな文章で、読んでいることを忘れるくらいリズムがよく、ずっとここにいたいと思うような文章を、今後も書いていけたらと思ってます」
読点のない文章の心地いいリズムや登場人物の魅力に引きこまれ、先を急いでしまうのが惜しくなる美しい作品だ。謎や筋運びより、文章そのものの牽引力や文学の底力を堪能できる、いい読書をした。
【プロフィール】はらだ・むねのり/1959年東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、コピーライター、作家として活躍。『優しくって少しばか』『スバラ式世界』等で支持を得る一方、鬱病を患い、2013年には覚せい剤取締法・大麻取締法違反で執行猶予付き判決が確定。2015年『メメント・モリ』を上梓、本作は復帰第2作。「最近は織田作之助を読んでいます。大阪の仕出屋の息子だからか薄味なのに奥が深く、本当に文章がうまい」。作家・原田マハ氏は妹。182cm、90kg、A型。
■構成/橋本紀子 ■撮影/国府田利光
※週刊ポスト2018年6月22日号