警察の内部事情に詳しい人物が関係者の証言から得た、警官の日常や刑事の捜査活動における驚くべき真実を明かすシリーズ。今回は、ある強盗事件の現場で、犯人に拳銃で撃たれた経験を元刑事が語る
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「撃たれた時の感触は…、そう野球のバットの素振りかな。それがガンとあたったような、そんな感じの衝撃があったね」
元刑事はゆっくりと右腹をさすりながら、そう語った。
昔も今も、刑事ドラマや警察ドラマは根強い人気がある。そうしたドラマの展開で犯人との格闘や逮捕など、シーンに緊迫感を持たせ盛り上げるために欠かせないのが銃撃や発砲シーンだ。しかしその一方で、現実のニュースで拳銃に絡んだ事件が報道されることもあるが、一般的な日本人にとっての「拳銃」はあくまでドラマの中のもの、身近なものではない。
その元刑事が撃たれた事件が起きたのは、彼がまだ交番勤務だった時だ。携帯電話も、街角や店先に防犯カメラもない時代。現場は巨大なターミナル駅にほど近い銀行の支店。寒い冬の日、閉店間際のその支店に、拳銃を持った男が押し入ったのだ。「異常発砲あり」という通報から始まったこの事件は、「警視庁が選んだ重大事件ランキング100位」にも入っている。このランキングは、警視庁が創立140年を記念して、平成26年に行った「みんなで選ぶ警視庁140年の重大事件」のアンケート結果によるものである。
通報を受けて最初に駆けつけたのは、銀行から最も近い交番に勤務していた巡査だ。そう、話をしてくれた元刑事である。
「通報を聞いた時、交番には二人の警察官がいたんだが、交番を閉鎖できないから、自分が一人臨場してね。現場に近いから走って行ったんだ。現場に着くと、店のシャッターは全部下りていた。でもビルの横にある非常ドアだけ開いてたんだよ」
銀行は営業時間終了の15時になるとシャッターを閉めるが、店内に残っている客が帰るために通用口を開けている。この時、その通用口がまだ開いていたのだ。
躊躇なく、そのドアをバッと開ける。目の前にコートを着た男が後ろ向きに突っ立っていた。その先には、手を上げて総立ちになっていた銀行員たちが見えた。銀行員は全員カウンターの中、男はカウンターの外だ。
「ドアの開く音に、やつがこっちを振り向いた。だが次の瞬間、やつはひょいとカウンターを乗り越えんだ。身のこなしが軽い。『逃げられる』そう思った俺はバッと駆けだした。何のためらいもなく銀行の奥へと逃げて行く男を追いかけた」
警察への通報は異常発砲によるものだ。男が拳銃を持っているとわかっていたはずだが、追いかけた時に拳銃は見えなかったのだろうか?
「見えたけど、まったく怖くない。何も怖くなかったんだよね」
彼はちょっと首を傾げながら、そう答えてくれた。拳銃に対する怖さはなかったという。