健康的な飲料として認知されている豆乳の消費は右肩上がりで伸び続けているが、当然ながら紆余曲折もあった。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が解説する。
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この数年、国内でも続々と新しい植物性ミルクが発売されているが、植物性ミルクの歴史は意外と浅い。日本人にとってなじみ深い植物性ミルクと言えば豆乳だが、1970年代までは豆乳のマーケットは存在しなかった。ところが1970年代終わりに「紀文」(現在、豆乳はキッコーマンに移管)が豆乳を発売したところから日本の豆乳市場は大きく動いていく。
豆乳に明確に光が当たり始めたのは1982(昭和57)年頃から。翌年にかけて大ブームになった。もともと飲料としての出荷はほとんどなかったところにさまざまなメーカーが参入し、いきなり10万キロリットルの生産体制に。豆腐の素材に過ぎなかった豆乳が、単体としての飲料として大注目を浴びることになる。
もっともこの頃は、まだ質や味の均一化は難しく、数年持たずにブームは沈静化した。その後十数年もの間、豆乳は冬の時代へと突入する。
第2次ブームが起きたのは2000年頃から。当時百花繚乱状態だったテレビの健康番組などで豆乳が取り上げられ、メディア主導での「豆乳の健康情報」が増殖した。この頃には第一次ブーム時に伸び悩みの原因となった「大豆くささ」などの味の課題もほぼ解決済みで、年々需要が伸びていく。
大ブレイクしたのは2003年。対前年比で約2割だった伸び率が一気に6割伸び、翌04年にかけても5割という驚異的な伸び率を示した。
この火付け役として見逃せないのは、2002年12月、スターバックスコーヒーが豆乳入りコーヒーの扱いを本格化させたこと。もともと同チェーンでは1999年から都内の一部店舗で扱っていたが、2002年には一気に120店舗以上まで拡大。翌年、この動きは他のコーヒーチェーンにも拡大し、テレビ・雑誌などのメディアで「豆乳」「ソイ」という名称を見る機会が爆発的に増え、豆乳は日本人の食生活に完全に定着することになる。
近年でも消費は引き続き伸び続けていて、2017年の豆乳製造量は前年比8.1%増と過去最高を更新し続けている。
現在、黎明期の豆乳ブームを彷彿とさせる伸び盛りの植物性ミルクがアーモンドミルクだ。2000年代中期まではココナッツミルクと同様、デザートを中心にごく一部で使われてきたが、2013年に豆乳大手のマルサンアイがアメリカのアーモンドミルク大手と提携し、市場が一気に活性化。