そのモスルでISからの奪還作戦が開始され、激戦が報じられた2016年10月中旬。MSFの派遣要請を受け、必要な物を買いに町へ行く彼女を父親は車で送ってくれたが、今しがたテレビで見ていたモスルが赴任地だとは切り出せない娘心も、〈心配なんだよ、こっちはよぉ〉と独りごちるしかない親心も、どちらも切ない。
「ただ反対はされなかったし、世界中で血を流し、苦しむ人々を見てきた私としても、逃げるわけにはいかなくて。その私も2014年に南スーダンから帰った後は心身共に疲弊し、当時は恋人がいたこともあり、別に自分が行かなくてもと思ったりもしました。でもそれは理屈であって、あの惨状を一度でも目撃したら、たとえ彼と別れることになっても私が行かなくちゃって、心は動くものなんです。
看護師を志した時もそう。当時その高校では就職組が大半で、会社説明会の話でざわつく教室の空気に、何か違和感があって。そんな時、ある友達が看護師になると言うのを聞いて、これだ! って、俄然心が動いてしまったんです。でもその選択を一度も後悔したことはないですし、医療者一人の責任が重い分、存在意義も高い今の仕事と出会えた自分は、幸せ者です」
◆人間愛を教えるのは看護の原点
人の生死を丸ごと受け止め、時に立場を超えた信頼関係すら築ける看護師は、素晴らしい職業だと彼女は言う。が、家や家族を失い、希望を失った人々の前では無力感を覚えることも多い。例えばガザの若者たちだ。