【書評】『感性は感動しない 美術の見方、批評の作法』/椹木野衣・著/世界思想社/1700円+税
【評者】香山リカ(精神科医)
本書は本誌・週刊ポスト読者にぴったりの良い本だ。著者は日本を代表する美術評論家で、内容はズバリ「美術の見方」。そう言うと「美術史や鑑賞のポイントが語られてるのか」と身がまえるかもしれないが、そうではない。結論を言えば、「絵とは『かたまり』として雑然と接し、答えも結論も出さないまま感じていたい」というのが、著者がすすめる「美術の見方」なのだ。
予備知識をいろいろ詰め込んで美術展に出かける必要もない。カタログは、「一度『いい』と思ったら、今度はその絵についていろいろ調べてみる」ために買うもの。また、「いい」と思う絵はあくまで自分の感性に従って選ばれるべきで、「話題作とか有名作とか、絵が大きいとか小さいとかいっさい関係がありません」とも書かれている。
「なんだ、そうなのか」と肩の力が抜けると同時に、「じゃ、どうすれば」と不安になる人もいるだろう。これまで「美術は教養」と思ったり「美術のウンチクはモテるための武器」と考えたりして一生懸命、美術ガイドなどを読み込み、何時間も行列を作って大混雑の美術館に入場したりしていたのが、「ただ、感じるしかない」と言われると「では、どうすれば?」と途方に暮れる。実は簡単そうでこれがいちばんむずかしいかもしれない。