本書の後半には、子ども時代から著者が住まいや環境、マンガや音楽などから感じ取ってきたことが、とても素直な言葉でつづられている。ここでも読む者はやはり、「ああ、これでよいのか」という安心感と「私にはこんな感性はあるか」という一抹の不安にとらわれるだろう。
でも、だいじょうぶ。「神はいなくても日々、命はある」と著者はすべての人を励ましてくれる。命があるからには感性はあるはずだ。むずかしいことは抜きにして、次の休日は美術館に行ってみてはどうだろう。「いい」と思える作品に、今度こそ出会えるかもしれない。そんな気持ちにさせてくれる会心の一冊だ。
※週刊ポスト2018年9月21・28日号