平成二十三年三月十一日の東日本大震災とそれによる福島第一原発の事故は、未曾有の国難というべき事態であったが、三月十六日の午後四時半にテレビ各局で放映された天皇陛下のメッセージは、まさに国家元首が被災者と全国民に向けて語られた、そのような言葉であった。地震や津波による死者を悼み、避難生活をする人々を励まし、危険のなか救援活動を日夜展開する自衛隊員、警察官や消防士の労をねぎらい、各国元首からのお見舞いや支援の声を伝える、そのマイクに向かう声は静かな落ち着きのあるものであった。
原稿をゆっくり読み上げる天皇の肉声には、万葉の歌人が「言霊の幸ふ国」といった、古代の日本人が未だ文字を持っていなかった時代からの、「大和の国」の声の響きが木霊のように宿っているかのように思われた。天皇のお言葉が直接に全国民へと肉声で届けられたのは、昭和二十年八月十五日の昭和天皇の玉音放送以来であった。
〈被災者のこれからの苦難の日々を、私たち皆が、様々な形で少しでも多く分かち合っていくことが大切であろうと思います。被災した人々が決して希望を捨てることなく、身体を大切に明日からの日々を生き抜いてくれるよう、また、国民一人ひとりが、被災した各地域の上にこれからも長く心を寄せ、被災者と共にそれぞれの地域の復興の道のりを見守り続けていくことを心より願っています〉
「長く心を寄せ」ることを、「見守り続けていくこと」をとくに語られているのは、物資的・経済的な復興に留まらない、亡くなった犠牲者やその遺族のことを心に刻み忘れることがないようにとの今上陛下の祈りと願いであろう。
【PROFILE】とみおか・こういちろう/1957年、東京都生まれ。中央大学文学部フランス文学科卒業。関東学院大学国際文化学部比較文化学科教授、鎌倉文学館館長。著書に『虚妄の「戦後」』(論創社)、『西部邁 日本人への警告』(共著、イースト・プレス)などがある。
※SAPIO 2018年9・10月号