彼が関わるお笑い番組ならば、面白い。そんな絶大な信頼を視聴者から寄せられる一人が、松本人志だろう。ところが、Amazonプライム・ビデオ『HITOSHI MATSUMOTO presents FREEZE』に対しては、2018年9月の配信以来、ちょっと様子が違う。各所で最低評価をされた、みずから監督をつとめた映画作品への反応を思い起こさせるのだ。イラストレーターでコラムニストのヨシムラヒロム氏が、『FREEZE』視聴者の反応がなぜ、これまでの松本人志バラエティに対するものと異なるのかについて、考えた。
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振り返れば、2017年はインターネットTVが盛り上がった年だった。なかでもAmazonプライム・ビデオで配信された『HITOSHI MATSUMOTO presents ドキュメンタル』シリーズは話題を集めた。シーズン1は、2017年度Amazonプライム・ビデオのランキングで1位を獲得。シーズン2は5位、シーズン3は6位とトップ10のなかに3本もランクインされる偉業を達成。松本人志プロデュースの名に恥じない人気を博した。そんなイケイケなまっちゃんが2018年に生み出したAmazonプライム・ビデオでの新企画、それが『HITOSHI MATSUMOTO Presents FREEZE』である。
現在、松本の才能は自らがお笑いを取りに行くプレーヤーではなく、お笑いを用いたゲームのチェアマンとして発揮されることが多い。芸人のフリートークに会員制クラブのような高級感を掛け合わせた『人志松本のすべらない話』。大喜利に斬新な問いかけとスピーディーさを加えた『IPPONグランプリ』。どれも自身は一歩引いた立場から司会を務め、ゴールゲッターは若手に譲っている。また、この2つともに既存する芸人の能力が問われる競技を引用し、そこに新要素を足して作られたゲームだ。
Amazonプライム・ビデオで配信されている2作品も構造は似ている。ただし引用元が子供時代に誰もがやった遊びだ。部屋に10名の芸人を6時間軟禁し、そこで笑わせ合う『ドキュメンタル』、このアイデアの根本にあるのは“にらめっこ”。そして、今回取り上げる『FREEZE』の元ネタは“ダルマさんが転んだ”である。要は動いてはいけない。シーズン1は、鈴木奈々、ボビー・オロゴン、岩尾望(フットボールアワー)、藤本敏史(FUJIWARA)、諸星和己、しずちゃん(南海キャンディーズ)、クロちゃん(安田大サーカス)、ダイアモンド☆ユカイ、とバラエティ番組で活躍する8名よって争われた。
イスが8脚並べられた半円形のスタジオ。そこに各人が座り、腕を組むのが基本姿勢。松本の「FREEZE」でゲームスタート、その体勢を崩さないことが唯一のルールだ。無論、様々な仕掛けが8名に襲いかかる。反応してしまった人間から脱落、全4ステージの最後までノーリアクションを貫き通した人間が勝者となる。
『ドキュメンタル』が芸人が生み出すケミストリーなら、『FREEZE』はバラエティタレントが奏でるリアクション。前者は笑いの玄人以外が挑めばケガをする。主体的にウケをとるテクニックがなければ、「あの芸人いらないよね」と言われてしまう戦場だ。しかし後者は極端にいえば、テレビに出演経験がない素人でも参加可能なゲーム。自然な反応こそが重要、よって間口は広い。
はてさて、9月に配信を開始した『FREEZE』をなぜ今頃取り上げるのか。理由は明快で、正直楽しめなかったからだ。それこそ当時書いていたら「つまらない」一辺倒のコラムになりそうだったので自重、執筆を「FREEZE」していた。あれから2ヶ月経過し、記憶も薄まった頃合い再び鑑賞。しかし、感想に変化なし。僕の笑いの感受性が鈍いのか、それともコンテンツ自体が弱いのか。画面上のまっちゃんは爆笑しているが、どうもそれに共感できない。
例えば、ステージ2のアトラクション。参加者を襲ったのは、最新テクノロジーの結晶ともいえる自由自在に動くロボットアーム。天井から釣り下がり、人間の手とほぼ同じ動きを再現。その手は諸星の鼻をほじり、岩尾の頭髪をかきあげ、鈴木の耳をいじる。ここまでは良いのだが、ボビーの鼻先を勢いよくチョップしたりもする。攻撃を受けたボビーは「ワァー痛てー!」と叫びつつ、ひっくり返る。それが見るからに痛そうなんだな。