2008年の北京五輪にも出場した佐藤は2011年に西武を戦力外に。トライアウトに参加するも声はかからず、イタリアリーグの球団に所属したあと、2012年には西武時代の恩師で、千葉ロッテの監督に就任した伊東勤に入団テストに誘われ、NPBのプロ野球選手に返り咲いた。
「千葉に生まれ育った僕は、千葉で現役を終えたかった。ですから、千葉ロッテで二度目の戦力外を受けた時(2014年)、すんなりと現実を受け入れられました。野球が大好きだという気持ちを持ったまま引退できました」
引退後の佐藤は父が起業した測量調査などを手がける会社「トラバース」に入社。昨年末に千葉営業所の所長となり、40人ほどの部下を持つ。
「入社後は測量や地盤改良工事の現場に行ってイチから勉強です。社員の皆さんに本気度を伝えたかったので、測量士補や二級土木施工管理技士などの国家資格も取得しましたし、今年10月には宅建を受験しました。資格があると仕事の幅も広がりますから」
トラバースには現在、かつて佐藤が在籍した埼玉西武の出身者を中心に、7人の元プロ野球選手が在籍している。
「昨年までは、トライアウト会場に足を運び、声をかけてチラシを配っていました。最近は噂が口コミで広がっているみたいで、選手の方から『採用してもらえませんか』と希望するケースもある。彼らからしたら、同じプロ野球出身の人が働いているというのは、安心なんでしょう」
同社には全国25か所に支社があり、地方出身の元プロ野球選手は、地元に近い支社で働くこともあるという。
自社に勧誘するだけでなく、セカンドキャリアを支援する「フューチャー」という団体を作る計画がある。
「まだ具体的には動き出していないんですが、元プロ野球選手にも『職業選択の自由』があると思っている。元プロ野球選手を受け入れたいという企業がたくさんあれば、元プロ野球選手も職種を選ぶことができる。フィーが発生する人材派遣業ではなく、一般社団法人のような形で考えたい」
トライアウトの現場には、川口をはじめセカンドキャリア支援の企業・団体を立ち上げた元プロアスリートの姿があった。子どもの頃からスポーツ一筋の人生を送ってきたアスリートが、その業界に居場所を失った時、いかに路頭に迷うか。直面する困難を身をもって知っているからこそ、支援に名乗りを上げるのだろう。
※文中敬称略