手紙に封はされていなかった。拘置所の検閲を経なければ、嘉浩たちには手紙類を出すことは許されていない。そのため封筒の口は開いていた。
三七日でお経を上げに来た君代に差し出された手紙。消印の捺されていない自分宛ての封書である。見慣れた「嘉浩さん」の字だった。震える手で、君代は、便箋を取り出した。
〈君代さんへ
前略 先週は面会と差し入れ、ありがとうございました。とても元気を与えていただきました〉
そんな言葉で、手紙は始まっていた。死刑執行の前の週、君代は六月二十七、二十八、二十九日と三日連続で嘉浩に面会に行っていた。二十八日には、コンサートでもらった花束を嘉浩に見てもらおうと、色とりどりの豪華な薔薇の花束を抱えていった。拘置所では花を見ることもできないだろう、という思いやりからだった。嘉浩はその花束を見て本当に喜んでくれた。
よほど嬉しかったに違いない。面会の間、嘉浩は「元気をもらった」と何度も言っていた。手紙にもそう書いている。だが、君代の目から涙があふれ出たのは、その次のくだりである。
〈かなり雨が降っています。大丈夫ですか? くれぐれも身心を大切にして下さい。
7月7日、七夕ですね。いのちの大空に、七夕の星々が輝いています。いのちの大空の下、いつも一緒です。
ありがとう ありがとう
大丈夫 大丈夫
いつも待っています。
2018・7・5 嘉浩〉
手紙には、そう書かれていたのだ。