平成最後の正月が終わろうとしている。もっとも平成を象徴する書物を一冊、武蔵野大学特任教授の山内昌之氏に選んでもらった。
●『昭和天皇実録』全十八巻/宮内庁編修/東京書籍/1700円~+税
いちばん平成の時代らしい書物は『昭和天皇実録』ではないだろうか。本実録の叙述スタイルは、昭和天皇一代の歴史を扱っている点で断代史のカテゴリーに入るが、全体として「帝紀」や「本紀(ほんぎ)」のように君主を中心に人の動きを描く紀伝体の性格も帯びている。
しかし実録では、或る事の顛末を一か所でまとめて叙述する紀事本末体も適宜併用した。これによって、平成の時代認識や新史料を昭和に遡って活用することが可能になった。
紀事本末体の重要例は、宮内庁長官富田朝彦の拝謁を受けた昭和六十三年四月二十八日条の記述である。これは、宮内記者会の質問に「なんといってもいちばんいやな思い出」は第二次世界大戦だと答えた二十五日条記載の発言に関係するものだ。
これに続いて、靖国神社のA級戦犯合祀と自らの参拝について「述べられる」と、実録は具体的な内容に触れずに、発言した事実自体を認めている。そのうえで実録は、「なお」という但し書きを使って、平成十八年七月二十日に日本経済新聞が「富田長官のメモとされる資料」を報道した事実に触れた。昭和天皇が靖国参拝について長官と会話した事実を記録する昭和六十三年の箇所に、時系列では遅い平成十八年の報道事実を合わせて記録したことになる。