中止直後に撮影された胸部X線写真について、B医師が指摘する。
「写真を見れば、右肺部から空気が漏れて肺を圧迫する『気胸』が発生していたのは明らかです。(穿刺が行なわれた)左心房のすぐ隣には肺があります。術中に心房中隔に穴を空けようとして何度もカテーテルを動かした際、誤って肺に穴を空けてしまい、気胸が発生したと考えられます。しかしK医師はカルテに『特に問題なし』と記載していました」(B医師)
手術翌日のカルテには〈日中にも血痰あり、やや酸素化不良 右呼吸音減弱〉〈CTでも右気胸あり〉との内容が記載されていた。
「血痰は肺が突き破られたことを指す重大なサインです。直後のCTで胸膜腔に血が溜まる血気胸が確認されました。本来なら血気胸を発見した時に補助心臓をつけて外科手術を施すべきでしたが、そうした処置はなされなかった」(B医師)
その後、A氏の状態は急激に悪化し、10月7日に死亡したのは前述の通りだ。
◆診断書の死因は〈病死及び自然死〉
A氏の死後、さらに不可解な出来事が起きていた。東大病院が作成したA氏の死亡診断書を確認すると、「死因の種類」という欄は、「病死及び自然死」にチェックが付けられ、「直接死因」は「慢性心不全急性憎悪」と記されている。
驚くのは、手術の有無を問う欄は「無」にチェックされており、主要所見の欄も空白だったことだ。死亡診断書からは、A氏に手術をした事実が“消えて”いるのだ。