2012年に現職大統領として初めて竹島に上陸した李明博氏(在職2008~2013年)も、もともとは反日的ではなかった。慰安婦問題の交渉で当時の野田佳彦首相が冷淡な対応をしたことに怒り、その反動で反日に転じたというのが実情だ(*)。左派の盧武鉉氏(在職2003~2008年)でさえ、徴用工問題は1965年の日韓協定で解決済みとし、国家間の約束を反故にしたりはしなかった。
【*2011年、韓国憲法裁判所の決定を受け、当時の李明博政権が慰安婦問題の解決を日本に迫ったことから関係が悪化した】
文大統領は、表向きは「司法には介入しない」などと公平中立を装っているが、これは偽りの姿である。韓国紙・東亜日報(2018年12月3日付)は、2000年に韓国で初めて三菱重工を相手に元徴用工の裁判を起こしたのは、他ならぬ文在寅弁護士だったとスクープしている。そもそもの仕掛け人が文大統領だったのである。
昨年12月3日には、元徴用工裁判で日本企業の代理人を務めている韓国の法律事務所が「大法院側と打ち合わせをして、裁判遅延に関与した」として家宅捜索を受けている。さらに、「元徴用工の補償は韓国政府がすべき」という反対意見を述べた大法院判事の弾劾までも始まりつつある。
こうした一連の反日の動きは、文大統領の意思を無視してできることではない。彼は歴史見直しを旗印に大統領になった。その必然的結果が反日である。彼は人権派弁護士のマインドを持ったまま大統領職を務めていると認識すべきだ。その文氏が北朝鮮の人権問題を不問とするのはどういうことだろうか。
【PROFILE】むとう・まさとし/1948年東京都生まれ。横浜国立大学卒業後、外務省入省。在大韓民日本国大使館に勤務し、参事官、公使を歴任。アジア局北東アジア課長、在クウェート特命全権大使などを務めた後、2010年、在大韓民国特命全権大使に就任。2012年退任。著書に『日韓対立の真相』『韓国の大誤算』『韓国人に生まれなくてよかった』(いずれも悟空出版刊)。
取材・構成/清水典之(フリーライター)
※SAPIO2019年1・2月号