映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、俳優・榎木孝明が、役者人生をスタートさせた劇団四季の研究生となった時期について語った言葉をお届けする。
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榎木孝明は一九七八年に劇団四季に研究生として入団、役者人生をスタートさせる。
「大学時代に『カッコーの巣をこえて』という四季の舞台をパルコ劇場で観まして、『なんてセンスのいい舞台をやるところがあるんだろう』と思いました。
ミュージカルをやる劇団とは知らなくて入団試験を受けて、受かって初めて知ったんです。試験に歌と踊りがある時点で感じなきゃいけないんでしょうけど、そういうところに無頓着で。
入ってからのレッスンもジャズダンスとかクラシックバレエとか声楽とかでしたから、半分はやらされている感が強かったですね。日本人にミュージカルは合わないと思っていました。特にあのタイツ姿がね。薩摩男児がタイツを穿いて人前に出るのは恥ずかしいと、レッスンの時は短パンでやっていました。
その後も自ら進んでミュージカルをやる気はありませんでした。ただ、研究生のうちから『こどものためのミュージカル・プレイ』というのが日生劇場であって、授業の一環で本番に出ていたので、考える間もなく忙しい生活に入っていきました。
今の四季はミュージカルの世界ですが、当時はそれだけではなくて、ジャン・ジロドー、ジャン・アヌイのフランスのお芝居もやっていたので、そちらに目が行っていました」
ミュージカルに対しては気持ちが向かなかったが、劇団で学んだことは多いと振り返る。