ここまで2人の幸せは長続きしなかっただけに、「もう挫折のシーンはお腹いっぱい」という人もいるでしょうし、現在の盛り上がりを見る限り、華々しい展開への期待感はピークに達している感があります。
しかし、ラーメン作りに入ったからと言って、今後は「成功に一直線」「幸せの絶頂」というわけにはいかないでしょう。まずはスープと麺の開発。次にラーメンが完成しても、需要や価格などの理由で売れるかどうかわかりません。さらに、再び粗悪な模造品に悩まされる。インスタントラーメンの信頼と安全の確保に奔走する。カップヌードル用の容器と麺の開発など、苦しい展開のリピートが予想されているのです。
『まんぷく』が最初から最後まで挫折と再起の物語になりそうなのは、チキンラーメンの発売が48歳、カップヌードルの発売が61歳だったように、安藤百福さんが典型的な大器晩成型の人物だから。つまり、安藤さんの人生を忠実に描いていていくと、「一大発明を成し遂げたサクセスストーリー」というより、「挫折と再起を描くヒューマンストーリー」になるということでしょう。そこに番組サイドの狙いと誠実さを感じます。
だからこそ、福子は萬平が苦境のときは寄り添い、事業で悩んでいるときはヒントを与え続けてきました。『まんぷく』はNHK大阪放送局の制作ですが、2人の物語はどこか大阪を舞台にし、何度も映画化やドラマ化された小説『夫婦善哉』のようにも見えます。ちなみに、同作の元になった大阪の法善寺横丁にある『夫婦善哉』が創業したころの店名は「お福」でした。
3月30日の最終話までどんな紆余曲折があるにしても、最後は萬平が世界の食文化を変え、「ミスターヌードル」と愛された安藤さんと同じ称賛を浴びるのは間違いないでしょう。挫折と再起がリピートされた数の分だけ、クライマックスのカタルシスは大きくなるだけに、残り約2か月間の放送期間を楽しみながら、その瞬間を待ちたいところです。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本超のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。