全国的にインフルエンザが猛威をふるっている。インフルエンザには、ワクチン接種による感染の予防効果があるとされているが、「時間がない」「効かない」などの理由で受けない人も多い。『できる人は統計思考で判断する』(三笠書房)著者でニッセイ基礎研究所上席研究員の篠原拓也氏が、インフルエンザなどの感染症の予防接種について、集団免疫の効果を数理的に解説する。
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はるか昔から、人類は感染症にさいなまれてきた。現代は公衆衛生が向上し、予防接種が浸透しているが、それでも多くの感染症が発生している。
感染症の中でも、毎年、世界的な拡大を見せるのがインフルエンザだ。日本では、毎年、秋から冬にかけて、インフルエンザの感染者が増加する傾向がある。疫学の研究者の間では、感染症に関する数理モデルが研究されている。その中で、感染症を定量的に分析する手法がいくつか示されている。そこで用いられる概念や用語について、みていくことにしよう。
まず、「基本再生産数」という用語がある。Roという記号で、英語でアール・ノート(R naught)と呼ばれる。ある感染症にかかった人が、その感染症の免疫をまったく持たない集団に入ったときに、直接感染させる平均の人数を表す。
もし、Roが1より大きいと、感染は拡大する。1より小さければ、感染はいずれ収束する。ちょうど1なら、拡大も収束もせず、風土病のようにその感染地域に根づくことになる。
過去に発生した感染症のRoの値は、どのくらいだったのだろうか。医療や公衆衛生関係の研究機関でさまざまな分析が行なわれている。アメリカ疾病予防管理センターによると、はしかは12~18、天然痘やポリオは5~7、おたふくかぜは4~7などとされている。
また、別の研究では、1918年に発生して世界的に流行したスペイン風邪(インフルエンザ)について、Roは2~3だったとのレポートもなされている。
なお、1つ気をつけなくてはならない点がある。それは、Roは感染症が発生した時代背景、社会、国、病原体などによって異なるということだ。
それでは実際に、Roを計算するには、どうしたらよいだろうか。