「お母さんは、わが子を守るために何十回も学校を訪れていた。そのため、地域の一部の住民は、『あの母親はモンスターペアレントだ』と心ない噂を立てる人もいたと聞いています。ただでさえ狭い学区なので、車を見れば誰が小学校を訪れたのかすぐわかる。そんな“閉ざされた環境”もお母さんを追い詰めた一因だったのだと思います」
昨年11月10日、小学校で音楽発表会が開かれた。校長室登校のAちゃんも、2時間目から発表会に参加した。クラスメートと一緒にステージに上がったAちゃんを、母も見つめていたという。
「Aちゃんの母親はAちゃんの発表を見ながら、泣き出したんです。その後、泣きながら、すぐに教室から小走りで立ち去りました。その時は事情がわからず、校長室への登校が続いていたAちゃんが舞台に上がれたうれし泣きと感じましたが、もしかしたら、追い詰められていたのかもしれない。今にしてみれば、なぜ声をかけなかったのかと後悔しています」(音楽発表会に出席した保護者)
音楽発表会があった後、11月23日から3日間、一家はふたたび北海道に帰省した。この時、いとこと会ったAちゃんは数か月ぶりに楽しそうな笑顔を見せた。その後もAちゃんは校長室への登校を続けていたという。
「最後に登校した日も、校長室にいたそうです。Aちゃんは友達と折り紙を折って遊んでいて、校長先生と友達と一緒で、その時はとても楽しそうに見えたと聞いています」(Aちゃん一家を知る保護者)
少なくとも周囲からすれば、Aちゃん一家は絶望し、自ら死を選ぶようには見えなかったということだ。
それならばなぜ、最悪の事態が引き起こされてしまったのか。片田さんは「お母さんは重いうつ状態にあった可能性が高い」と推測する。
「そういう状態であれば、たとえ周りに好意的な人がいたとしても、その言葉に耳を傾けることができなくなるうえ、他人のちょっとした言葉もマイナスにとらえてしまう。子供へのいじめがきっかけだが、お母さんの方が深く追い詰められてしまったのではないか」
実際、8月末に母親が遺したメモの中には、《今回はほぼ、親のカウンセリングだった》という文言もあった。最愛のわが子の、長きにわたる苦しみと周囲にSOSが伝わらない虚無感で精神的な限界を超えたであろう母親は、Aちゃんが最後に学校へ姿を見せた2日後に最愛のわが子とともにこの世を去る。
遺したメモには、事件を予言するようなこんな文言もあった。
《今回の事が将来にわたり影響が及ぶ可能性が大きいことを重く認識してほしい。Aの学習する機会、心身の健康が奪われている。いつかの時点で本当に自殺する事があれば、今回の事が原点である事を訴え続けていきます》
※女性セブン2019年2月21日号