父親が家を建てた時は周囲に畑もあったが、都市化でいまやマンションが建ち並び、地価も上がった。親の資産に預貯金はそれほどないが、自宅の不動産価値はかなりある──。都市部の相続で多いのがそんな「主な資産は自宅の土地建物」というタイプだ。
遺言がなければ妻(配偶者)と子供たちで遺産分割を話し合うことになるが、預貯金が少ない場合、法定相続(妻と子で遺産を折半)で分配するには自宅を売って現金化しなければならないケースがある。そうなると妻は住む家を失ってしまう。
そんな事態を防ぐために7月1日の改正(※民法の相続規定/通称「相続法」の改正)で新たに創設されるのが「配偶者居住権」という権利だ。
これは自宅の財産価値を「所有権」と配偶者の「居住権」に分割し、所有権は子供が相続、妻は居住権を持つ。そうすれば、残された妻が自宅に生涯住み続けながら、亡夫の残した預貯金の一部で生活できるようになる。
もうひとつ、配偶者の生活を守るために新設される制度が自宅の「配偶者贈与」の優遇措置である。
結婚20年以上の夫婦間で自宅を生前贈与(遺贈)した場合、自宅を「相続財産から外す」という制度だ。現行制度では夫が妻に自宅を生前贈与や遺贈した場合、「遺産の先渡し」とされ、相続財産に含められてしまう。結局、自宅分を含めた財産は子供と遺産分割しなければならない。
それに対し新ルールでは、妻に贈与された自宅は「妻のもの」とされ、それ以外の資産を妻と子供で遺産分割すればよくなる。法務省は「遺産分割における妻の取り分が増えることになります」(新ルールのパンフレットより)と説明している。