今でこそサイテー男ですら手なずける指原も、当初は”ヘタレキャラ”として世の中に現れた。「恋愛したことはないです! 男の人が怖くて特にイケメンが苦手です!」と男性不信を猛烈アピールし、恋愛禁止条例を地でいくキャラでファンを増やした。
ところが2012年、スキャンダルによって嘘がバレる。だが、しぶとい指原はそれに乗じて“ぶっちゃけキャラ”に転向。「アイドルなのに……」を前口上にバラエティの世界を席巻した。
そして、今となっては特定のキャラがないタレントに進化。コメントが上手な“面白い人”として世間に認知されている。
指原はキャラクターで番組に出演してきたなかで、未来を見据えてテクニックを獲得してきたのだろう。バラエティ界において、理想の進化を遂げた人と云える。
触れ方を間違えば火傷をする危うい番組『恋するサイテー男総選挙』。際立つテクニックが指原を守る。「芸は身を助ける」、絶妙なバランス感覚で立ち回った末にサイテー男すら魅了した。
まず、逃げ方がうまい。女性が声を発して読むことがはばかられるテーマの場合、そんな時は「ちょっと読めない字が並んでますけど……」と音読を避ける。夜の情事に関して意見を言う際も「私は」という主語は使用せず「女の人は」といった総論で語る。
距離を詰めてくるサイテー男に関しても上手に逃げる。「指原さんもそうですよね!」と相手が近づこうものなら「違います!」と手を左右に振りつつ言葉をシャットダウン。場合によっては伏し目がちにし、ワザと間を空けることも。自らが発言する時は言葉を吟味する。ただし、間を作らないために必ず「うーん」と声を出しつつ、目を上に向ける。
指原は相槌とまばたきの数が異常に多い。身振り手振りも派手だ。発言するサイテー男からすれば、自らの意見が響いているように映る(これは短時間でファンを満足させる握手会で得たテクニックだと思う)。視聴者はゲスな会話にも真摯に取り組む姿に好感を抱く。
『恋するサイテー男総選挙』の指原を観て、その手腕に脱帽しっぱなし。逐一面白く、ソツもスキもない。“ヘタレキャラ”が第1形態だとすれば、 “ぶっちゃけキャラ”は第2形態。今の指原は“面白い人”で完全体へと仕上がっている。『ドラゴンボール』のセルがごとく。
心技体、バラドルの全てを兼ね備えた完全体・指原莉乃。その春は今後も長いこと続くに違いない。
●ヨシムラヒロム/1986年生まれ、東京出身。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。イラストレーター、コラムニスト、中野区観光大使。五反田のコワーキングスペースpaoで週1度開かれるイベント「微学校」の校長としても活動中。テレビっ子として育ち、ネットテレビっ子に成長した。著書に『美大生図鑑』(飛鳥新社)