【書評】『都市空間の明治維新──江戸から東京への大転換』/松山恵・著/ちくま新書/880円+税
【評者】川本三郎(評論家)
明治維新によって東京が京都にかわって政治の中心になってゆくにあたって、東京の町にどんな変化が起きたか。気鋭の学者が、従来あまり語られてこなかった明治初期、変動期の東京の諸相を語る。教えられるところが多く、読みごたえがある。
そもそも東京への遷都は簡単に決まった訳ではない。大久保利通は旧弊の残る京都から離れることを主張したが、遷都の候補として考えていたのは大阪だった。それが東京になったのは、江戸時代からの武家屋敷が幕府崩壊と共に多数、空家になっていたことが大きかった。ストックの利用である。いわば幕府の遺産を受け継ぐ利があった。それでも当初は政権の基盤は京都にあり、新政府にとって東京は新たな「植民地」だった、という指摘が興味深い。
天皇は明治元年に東京に来るが三か月ほどで京都に帰っている。まだ京都中心だった。明治二年に再び東京に来た時にようやく東京に落ち着く。だからこの天皇「再幸」が東京史では重要だという。
銀座の大火のあとの煉瓦街建設、旧大名屋敷に当時の日本の重要な生産物だった桑と茶を植える桑茶政策など新政府の都市計画についても詳細に語られてゆく。随所で従来の説とは違う解釈を提示しているのが刺激になる。