とくに面白く読んだのは二か所ある。ひとつはこれまでの維新史ではほとんど語られて来なかった福島嘉兵衛なる人物。町人だが薩摩藩のために働き、人足や奉公人を束ねた。薩摩藩を底辺で支えた。維新後は貧民救済をすると共に、新政府から利権も得た。著者は、こういう人物の存在も、明治初年の東京を語るには重要だとする。
もうひとつ評者が蒙を啓かれたのは「朝臣」たちの動き。「朝臣」とは、新政府に新たに仕えることになった旧幕臣のこと。彼らは維新後、絶好の機会とばかり旧武家屋敷を次々に手に入れたという。こういう無節操な連中が旧幕臣のなかにいたとは驚く。
※週刊ポスト2019年4月5日号