5月25日~28日に来日したトランプ米大統領は、日米貿易交渉に関して強硬姿勢を崩さない構えを見せた。今後、追加関税や対米輸出規制などを迫られる可能性がある自動車業界のトップは危機感を募らせているが、じつは豊田章男・トヨタ自動車社長が発言して物議を醸した「終身雇用は難しい」の真意も、こじれる日米貿易に対する強烈なメッセージだった。神戸国際大学経済学部教授の中村智彦氏がレポートする。
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5月7日に日本経済団体連合会(経団連)の定例会見の席上、中西宏明会長(日立製作所会長)が終身雇用制度について、「制度疲労を起こしている。終身雇用を前提にすることが限界になっている」、「雇用維持のために事業を残すべきではない」などと発言し、大きな話題となりました。
こうした中、今度は、5月13日の日本自動車工業会(自工会)の2019年度定時総会で豊田章男会長(トヨタ自動車社長)が「終身雇用を守るのは難しい」と発言したと、多くのメディアが報道し、批判する意見も多くみられました。しかし、筆者の周囲の自動車産業の関係者の多くは、その報道に違和感を持ったと指摘していました。
出席していた関係者の話や報道などから整理すると、豊田会長は定例記者会見でまず経団連の中西会長の発言について質問され、「雇用を続ける、雇用を拡大している企業に対して、もう少しインセンティブをつけてもらわないと難しい局面にきている」と述べたことが分かります。
さらに総会後の懇親パーティーの際、豊田会長は例年にはない挨拶を行い、その中で「日本での生産が減ると雇用も守れなくなる。令和をそのような時代にしたくないので日本を強くできるよう頑張っていきたい」と述べています。
一部の報道では、これらを豊田会長が「終身雇用は難しい」と発言し、経団連の中西会長の発言を追認したように問題視する意見が多く見られたのですが、よく読むとかなり印象が違っていることが理解できるでしょう。