絵本とは、まだ満足に字が読めない子供たちに向けて、物語を分かりやすく伝えるものだと捉えられることが多い。だが、大人が自分の人生を重ねることができるような絵本も存在する。諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師が、大人も楽しめる絵本についてお届けする。
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最近、感動した絵本がある。『100年たったら』(文・石井睦美 絵・あべ弘士 アリス館)。昔一頭のライオンが広い草原に住んでいた。ほかの動物は食べつくしてしまって、草原には虫しかいない。
ある日、草原に一羽の鳥が降り立つ。ライオンが近づいても逃げない。「わたしもうとべない。あんた、おなかがすいているんでしょ? わたしをたべたらいいわ」
「あいにくおれは、にくはくわないんだ。おれのこうぶつはくさとむしさ」ライオンは見栄っ張りで寂しがりやだ。
それからというもの、二者の間に友情が生まれる。いっしょに虫を食べ、鳥はライオンのたてがみの中で眠り、歌をうたった。
月のきれいな夜、鳥はライオンの背中から転げ落ちるようにして地面に降りた。
「わたし、もういくよ」「こんな夜にどこにいくんだよ」ライオンは鳥がどこへ行こうとしているのかわかって、泣いた。
「またあえるよ」と鳥は言った。「いつ?」「うーん、そうだね、100年たったら」
100年経って、ライオンは岩場の貝になっていた。鳥は海の波になっていた。さらに100年経って、ライオンは3人の孫のいるおばあさんになっていた。鳥は、孫娘が持ってきたひなげしの花になった。ライオンが白いチョークになると、鳥は黒板になった。
そして、何度目かの100年が経ったとき、ライオンは男の子に、鳥は女の子になっていた。