音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、柳家権太楼が「嫌い」と避けてきた『鼠穴』に独自演出を施した初演の衝撃についてお届けする。
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柳家権太楼が、これまで「嫌いな噺だ」と避けてきた『鼠穴』を5月13日の「権太楼ざんまい」(日本橋劇場)で初演した。権太楼は「東京かわら版」4月号の巻頭インタビューで『鼠穴』はできないと発言したばかり。それだけに一層驚いた。
4年前、『鼠穴』を演ってくれと言われた時に色々考えたが、結論は「俺が演る噺じゃない」。だがここへ来て「演らなかったら悔いが残る」と思ったのだと権太楼は言う。
そして演じた『鼠穴』。これが、圧巻の出来だった。冒頭から「目からウロコ」の新展開、全編に独自の演出を施して、権太楼は筋の通ったドラマを新たに創作した。
田舎から江戸に来た竹次郎に兄が貸したのはたったの三文。途方に暮れた竹次郎が空腹で倒れそうになっていると、通りがかりの親切な江戸っ子が自分の長屋に連れて行き、大家に話をして物置に住まわせる。やがて竹次郎の人柄を認めた大家が身元引受人となり、竹次郎は長屋で一人前の暮らしができるように。
草鞋などを懸命に作って売りに出る竹次郎。その評判を聞いた深川の香具師の元締めがやって来て、商品の一手販売を申し出る。販路が広がり稼ぎが増えた竹次郎は、長屋のおかみさん連中の世話で働き者の女房をもらい、はなという女の子も生まれた。そんな竹次郎に元締めが、今度は「質屋をやらないか」と話を持ってきた。昵懇の質屋が体を壊し、居抜きで店を譲る相手を探しているという。「ガキの頃からの友達が番頭だ、安心しろ」と言われ、竹次郎は深川蛤町の質屋の主人となる。