共同相続人の中に遺贈を受けたり、婚姻、もしくは養子縁組のため、あるいは生計の資本として贈与を受けた者がいたときには、公平を期するために、その利益(「特別受益」)を実際の遺産に加算して法定相続分で分割、特別受益があった相続人は、計算上の相続分から、特別受益の額を控除して現実の分割をする考え方です。
要するに、遺産の前渡し分を調整する制度といえます。例えば、アパートのように収入が期待できる建物に無償で住まわせていれば、管理人の役割と引き換えであるような場合を除き、生計の資本ともいえるでしょうが、被相続人が自宅に子供を無償で同居させるのは、一種の恩恵であって、生計の資本の前渡しとは言い難いでしょう。
しかも同居することで、お母さんの面倒も日常的に見ていたはずであり、一方的な利益でもありません。よって「特別受益」には該当しない、との立場での交渉には、十分に理があると思います。
【プロフィール】竹下正己●1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2019年8月30日号