63勝0敗――。日本電産の永守重信会長兼最高経営責任者(CEO)の大型M&A(合併・買収)の自己申告に基づく成績表である。
日本電産の事業構造はM&Aで激変した。平成が始まった1990年3月期は祖業である超小型モーターが事業別売上高の85%を占めていた。当時の連結売上高は500億円、同営業利益は40億円という中堅企業だった。
だが、平成が終わった2019年3月期は、車載・家電・産業用モーターが事業別売上高の55%に達し、超小型モーターは29%に低下した。連結売上高は1兆5183億円、営業利益は1386億円まで急成長した。
平成の時代にハードディスク駆動装置(HDD)用モーターで世界シェア85%、携帯電話の振動モーターや電動パワーステアリングで同40%を握る「世界一の総合モーター企業」にのし上がったことになる。連結売上高は30倍、営業利益は35倍となった。
急成長を可能にしたのは、何といってもM&Aの成果といっていい。永守氏は“平成の買収王”の栄誉を欲しいままにした。
しかし、買収後に大型損失を出したことがない日本電産が、M&Aで初めて巨額損失を出した。傘下のドイツの家電用部品大手、セコップ社のコンプレッサー事業売却で198億円の損失を計上したのだ。
その結果、2019年4~6月期の連結決算(国際会計基準)は連結売上高が3608億円と前年同期に比べて3%減った。また、営業利益は279億円で39%減り、3四半期連続の減益となった。中国景気の減速を受け、家電や産業用のモーターが不振。さらに、車載用モーターでは先行投資が重荷となり円高も利益を押し下げた。
「中国の状況が良くなっているわけではない」と永守会長兼CEOが述べた通り、“米中貿易戦争”が業績を直撃。純利益は34億円と91%減と激減してしまった。