◆唯一失敗となった独のセコップ社の買収
しかし、「私、失敗しないんです」が売りだった永守氏が、なぜ失敗したのか。
日本電産が前出のセコップグループ4社を約220億円で買収したのは、2017年8月のこと。4社を含む6社が日本電産の子会社となった。
セコップ社は1956年創業。家庭用、業務用の冷蔵庫用の中核部品(コンプレッサー)の開発、製造、販売を手がけ、2016年12月期の売上高は約425億円あった。
永守会長兼社長(当時)は4月26日の買収発表の会見で、「(セコップ社との)交渉は、何回も決裂した」と明かした。買収価格を抑えるために「ずいぶん粘って交渉した」と語っていた。
セコップ社の買収後は冷蔵庫市場に本格参入した。セコップ社の冷蔵庫用コンプレッサーと日本電産の高性能モーターを組み合せ、環境規制が年々強まる欧州やアジアに売り込む。モーターを単体としてではなく、モジュール(複合部品)化することで業績に大きく寄与すると考えたのである。家庭用モーターの世界市場規模は単体だと5000億円だがモジュールなら4兆円に大化けする。
日本電産は2017年3月期に連結売上高1兆1993億円、営業利益1403億円だった業績を、2021年3月期に売上高2兆円、営業利益3000億円にまで引き上げる目標を掲げてきた。この計画の実現のために、セコップ社グループの買収に踏み切ったのだ。
だが、欧州規制当局の壁は厚かった。欧州委員会がセコップ社の売却を米家電ワールプールの冷却部品事業の買収を承認する交換条件としていたのである。
「米コンプレッサー大手の買収は、各国独禁当局から2~3か月で承認されたが、欧州委員会だけは1年を経ても無理難題を押し付け、セコップ社の売り先にまで介入してきた。
普通なら100億円の売却益を得られる案件なのに投げ売りを強いられ、大金をドブに捨てたようなものだが、条件をすべて飲んでクローズした。ビジネスマンは勝ち負けではなく収益最優先。直ぐに取り返せる」
決算説明会で永守氏はこう述べたが、表情には悔しさが滲んでいた。
「日本企業による海外M&Aの88%は失敗している。10%は成功でも失敗でもない。成功しているのは2%だけだ」
永守会長の有名な語録だ。確かに日本企業の海外でのM&Aでは「のれん代」の償却で巨額損失を計上するケースが多い。高値づかみの失敗が原因だが、日本電産にはそれがないというのだ。「買収価格を徹底的に抑えてきたからだ」と主張する。だが、セコップ社が、永守会長のM&A人生で唯一の失敗例となった。