映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、俳優の横内正が、俳優座入団から退団、蜷川幸雄演出の講演で平幹二朗と共演した思い出について語った言葉についてお届けする。
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横内正は一九六四年に俳優座養成所を卒業し俳優座に入団、役者としての道を歩み始める。
「卒業公演でゴーリキーの『どん底』をやったんですけれど、僕はその中でサーチンという大役をいただきました。細川俊之が男爵という役をやり、二人のコンビがなかなか好評で。
芝居がハネた卒業式で俳優座の総帥だった千田是也先生が『あのサーチンやった人は誰ですか?』って訪ねてこられましてね、『やった!』と思った。
僕は舞台で大きく表現することへの願望が強かったんですよ。東京に出る前、北九州にいた頃にモスクワ芸術座の芝居を観にいったことが鮮烈に頭に残っていて。彼らのように大きく表現したい思いが強かったんですね。
それで、歌舞伎の俳優さん専門の肉襦袢(にくじゅばん)をこさえてもらったり、靴も上げ底にしたりで大男のロシア人に変身。それから、僕の声は低いのでそれも効果的に使おうと思いました。ただ、まだ日本人のお茶漬けな発声だからなんとかロシア人の声に近づけないかとロシア料理店でウォッカをガブガブ飲んで喉を焼いたり、馬鹿な真似をしました」
俳優座は一九七三年に退団している。