ライブに駆け付けた宮本英司さんと話すクミコ
ここで、容子さんがまとめていた「神様お願い この病室から抜け出して 七日間の元気な時間をください」と綴られた詩の“最期の7日間”を紹介しよう。
1日目:台所に立って料理をいっぱい作りたい。あなたが好きな餃子や肉味噌、カレーもシチューも冷凍しておくわ
2日目:趣味の手作り。作りかけの手織りのマフラー、そしてミシンも踏んでバッグやポーチを心残りがないほどいっぱい作る
3日目:身の回りのお片付け
4日目:愛犬を連れてあなたとドライブに行こう。箱根がいいかな、思い出の公園手つなぎ歩く
5日目:子供や孫の一年分の誕生会。ケーキもちゃんと11個買って、プレゼントも用意しておくわ
6日目:友達集まって憧れの女子会をしましょ。お酒も少し飲み、カラオケで十八番を歌うの
そして7日目は、お気に入りのCDをかけて、「あなたと二人きり、静かに部屋で過ごしましょ」と──。
容子さんが生前、成し遂げることができなかった7つの思いを、クミコは切々と歌い上げた。この楽曲をプロデュースしたのは、山口百恵や郷ひろみ、南沙織らをスターにした音楽プロデューサーの酒井政利氏。かつて吉永小百合・浜田光夫主演で映画化されたことでも知られる、軟骨肉腫で21歳の生涯を閉じた大島みち子(ミコ)と大学生・河野實(マコ)の実話『愛と死をみつめて』を、青山和子に歌わせ、ヒットさせた経験を持つ。
「世の中がアナログからデジタルに変わり、デジタル化が進めば進むほど、人間同士の愛情が欠けていってしまうように感じていました。人の思い合う気持ちは、人間にとってすべてのエネルギーです。通じあえればそれはさらに強くなる。生きるうえで最も大事なことを、この歌に託しました」(酒井氏)
この歌が世に出たことで、「死ぬまでにやっておきたいこと」を募集したラジオ番組では、パーソナリティの生島ヒロシが生放送で、号泣しながら詩を読み上げた。
容子さんの夫の宮本英司さんが振り返る。
「容子の遺品を片付けた後、心にぽっかりと穴が空いた寂しさがあって、1か月、2か月、そして1年、2年経つうちに、みんな容子の思い出を忘れられちゃうのかな、という寂しさがあって…。容子の言葉をみんなに見ていただければ、容子の記憶が残るのかなと、いう思いでの投稿でした。
私自身、まだ容子が亡くなったことをしっかり受け止められていない。容子には“みなさんの心に思いを届けたよ”と報告しました。歌になり、容子の思いを全国のみなさんに聞いていただき、感謝しています」
クミコ『妻が願った最期の「七日間」』(日本コロムビア) 作詞は映画『千と千尋の神隠し』の主題歌「いつも何度でも」の覚和歌子。作曲はAI「Story」やLittle Glee Monster「はじまりのうた」などを手掛けたKEN for 2SOUL
【PROFILE】クミコ/1954年生まれ。シャンソニエの老舗「銀巴里」でプロ活動スタート、2010年『INORI~祈り~』で、NHK紅白歌合戦に初出場、2017年『デラシネ』が日本レコード大賞優秀アルバム賞受賞。10月26日に「ビルボードライブ東京」で公演を行う。メディアやコンサートなど各方面で活動中。http://www.puerta-ds.com/kumiko/