メインターゲットのOL層が最も求めているのが、さわやかなハッピーエンド。さんざん夢を見てきただけに、「後味の悪い結末で気分を台なしにされた」と感じたらバッシングは免れないでしょう。

たとえば、『凪のお暇』は、凪がお暇を終わらせて人生を立て直し、空気を読まずに過ごせるようになる。『セミオトコ』は、由香が他人とのコミュニケーションをうまく取れるようになり、仕事にもやりがいを見つける。『これは経費で落ちません!』は、大きなピンチが訪れても沙名子の仕事ぶりは変わることなく、最後には太陽と結ばれる。

 これらのさわやかなハッピーエンドを見せることで、多くのOLたちは「3か月間見続けてよかった」「癒しや元気をもらえてありがとう」という心境にさせられるでしょう。

 ただ、あまり知られていませんが、そもそも夏ドラマは「全面的なハッピーエンドが似合わない」と言われています。一年で最も開放的な気分になり、長期休暇や花火などのイベントで盛り上がる8月が終わるころ、人々の気分は一変。夏の終わり特有の寂しさを感じたあと、忙しい日常に戻るだけに、8月までのファンタジーを引きずるような全面的なハッピーエンドはフィットしないのです。

 制作サイドに求められるのは、「ファンタジーを終わらせて視聴者を現実に戻した上で、それなりのリアリティがあるハッピーエンドを見せる」こと。

たとえば、『凪のお暇』は、凪が慎二とゴンのどちらも選ばず二人から愛され続け、やりたいことを見つけずお暇を続ける。『セミオトコ』は7日間で死んでしまうはずのセミオが生き続ける。『これは経費で落ちません!』は、会社を揺るがす大問題が勃発し、それを沙名子の力で解決。さらに、太陽から早くもプロポーズを受けて結婚する。

 これらの「夢を見させたままドラマを終わらせてしまう」という展開は、かえって視聴者を醒めさせてしまうものであり、夏ドラマ終盤のムードに合いません。「気持ちよくさせておいたまま放置する」のではなく、地に足のついた結末が求められているのです。

◆「いい気分転換になった」と思えるか?

 残りの放送は、『凪のお暇』が3話、『これは経費で落ちません!』が4話、『セミオトコ』が2話。最後までヒロインの恋や仕事は大きく動き、9月末にはOLたちの間で「3つのうちどれがよかった?」という声があがるのではないでしょうか。

 夏ドラマは、もともと学生も社会人も、夏休みを取る時期に放送されるため、「リセット」「リスタート」「リボーン」などのコンセプトで制作されるケースがよく見られます。

 3作が終わるころ、3人のヒロインは新たな姿を見せてくれるでしょう。また、最終回を見終えたOLたちが、「ドラマを見たことで、いい気分転換になった。来週からまた新たな気持ちで頑張ろう」と思えるような結末を見せてほしいところです。

【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本超のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。

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