映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、俳優の横内正が、強いこだわりを持つ発声について語った言葉についてお届けする。
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横内正といえば、よく響く低音の声が魅力的だ。それだけに発声に強いこだわりがある。
「自分に安定して出せる声があるとしたら、その中に発声を当てはめることはしません。あえて高いキーや低いキーに挑戦して声帯の幅を広げていきます。
そうすることで、例えば感情が激高した時にヒステリックな高い声を出したり、それが収まった時に抑えた声を出したりできます。それで振幅のある声を作り、感情の起伏もより効果的に表現できるわけです。身体を一つの楽器にするといいますか。
俳優を目指してからはウェイトリフティングなどで胸板を厚くして、共鳴腔を広げて声量を大きくするよう努めました。
最近の芝居では、大劇場でやる時は私もですが皆さんマイクを使うんですよね。生のセリフというのはまずありません。それだと立体感が出ないんですよ。相手との距離感によって音量は異なるわけですが、それが同じになってしまう。近い距離でしゃべるセリフ、遠くに向けてのセリフ、それぞれ発声は異なるわけです。その違いを表現する技術を俳優が養い、せめて中劇場の芝居からは実践してほしいですね。
そういうテクニカルなことができる俳優は少なくなっていると思うんです。役作りについてもそうです。我々のような新劇をかじったことがある俳優であれば、作品を理解するために必要な本を読んだりして、役の人物がだんだん培われていきます。役がふっと膨らんでいくことはそうありませんね」