二時間ドラマで刑事役や時代劇を演じることはあるものの、日常的なホームドラマなどにはあまり出ていない。そこには、横内なりの自己分析があった。
「ヅメさん(橋爪功)が山田洋次さんの映画で飄々とお芝居しているような、ああいう質感は僕にはないんですよね。
僕自身はナチュラルにやっているつもりなのですが、面立ちも割と派手ですし、声の質感もそうですし町工場のオヤジさん役をやっても作り物になるというイメージが制作側には多分にあるんでしょう。
でも、それを払拭するには時間が限られている。それならプラス思考でいこうと。自分がこれまで追い求めてきた舞台のダイナミズム──大きく表現することに特化しようと思いました。
そういう方向に考えることになった原点には、音楽があります。僕の兄はジャズギタリストで、それが日本人離れしていたんですよね。ギターというのは爪で弦を弾きます。でも兄は打楽器のように、糸が切れるくらいダイナミックに弾くんです。繊細な音色ももちろん奏でますけどね。そういうダイナミズムを演技の中で生かせないものか考えてきました。
口跡の良いセリフが心地よく、共演して楽しかったのは北大路欣也さんです。彼も演劇の好きな人だから、お芝居をやると互いの求めている質感が合う。時代劇の時はグッと構える所作とか、そういう歌舞伎の流れを継承した、新劇出の俳優にはなかなかできない仕立てで来る。そこは学ばせてもらいましたね」
■撮影/黒石あみ
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
※週刊ポスト2019年9月13日号