元々これらの研究機関には防衛省からも年100億もの予算が流れ、学術会議が警鐘を鳴らすほど。近年はそこに米軍までが金を出している。2年前の事件を知る大杉は思う。〈たとえ、防衛装備移転三原則と名前が変わっても、そこまで規制が緩くなったとは、思いたくない〉
「私の情報源は専ら新聞です。毎日広げて読む中で、各社違う論調の間に大抵の真実は見えてくるんです。元々このシリーズも公安関係の古い資料を神保町で見つけ、『裏切りの日日』で公安小説と本格トリックを融合させたのが始まり。公安の内実を初めて小説に書いた、という多少の自負はあります。ただし物語の外にも世界はあり、そっちをどう生きるかは、また別の課題として考えないとね」
小説や音楽や芸術に社会を変えるまでの力はないと、最近、逢坂氏は思うらしい。
「たぶん小説は、小説以上でも以下でもないところに、価値があるんです」
物語が終わってなお読者の中に生き続ける、百舌の不穏な残像も、その1つだ。
【プロフィール】おうさか・ごう/1943年東京生まれ。中央大学法学部卒。1980年『暗殺者グラナダに死す』でオール讀物推理小説新人賞を受賞し、1981年初著書『裏切りの日日』を発表。『百舌の叫ぶ夜』『幻の翼』『砕かれた鍵』『よみがえる百舌』『墓標なき街』本書へと続くシリーズは、西島秀俊主演『MOZU』として映像化もされ大ヒット。1986年『カディスの赤い星』で直木賞、日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞、2015年『平蔵狩り』で吉川英治文学賞など。169cm、78kg、A型。
●構成/橋本紀子 ●撮影/三島正
※週刊ポスト2019年9月20・27日号