【著者に訊け】貫井徳郎氏/『罪と祈り』/1700円+税/実業之日本社
貫井徳郎氏、約2年ぶりの新作のタイトルは、罪と罰ならぬ、『罪と祈り』。ある時、隅田川・新大橋付近で西浅草在住の元警官〈濱仲辰司〉が遺体で発見される。身元確認のため管轄の久松署を訪れた〈亮輔〉は、父が頭部を鈍器で殴られた上で川に転落したらしいと、幼馴染で父親同士も親友だった久松署刑事〈芦原賢剛〉に聞かされる。
温厚なお巡りさんとして慕われた父親が、なぜ他殺なのか? 折しも勤め先が倒産し、目下無職の亮輔は事件当日の父の足取りを追う。賢剛の父〈智士〉の死以来、家族に対してもどこか心に壁があるように感じた父・辰司の過去とも、やがて向き合うことになる。だがそれは〈知らない方がいい〉過去でもあった──。
物語は平成末期の「亮輔と賢剛」編と、昭和末期の「辰司と智士」編が交互に進み、親世代の禍根に翻弄される2人の姿が時代と人の残酷な関係を映しだす、あまりにも切ない「正義と罪を巡る小説」である。
「元々は手塚治虫が『アドルフに告ぐ』で描いたような、運命に翻弄された2人の友情と対決を書きたくて、現代の亮輔と賢剛のパートありきで考え始めました。ただ彼らは元ナチスでもユダヤ人でもないし、父親世代に何か謎があって、それを亮輔たちが背負うとしたらどんな過去だろうと考えて、このバブル期に起きた未解決の誘拐事件を思いつきました。
僕もかつては不動産業界におり、ヤクザに立ち退きを強要させたり、〈豚の血〉を玄関に撒いたり、相当酷いことをやる某上場企業もあったと聞きますし、それこそバブルを知らない世代には作り話に見えるかもしれません。そうやって人々が金の力に呑み込まれ、常軌を逸していった時代に、彼らの父親がどう抗ったかを、現代と過去とを並行させながら書いてみました」