「正直、ジャパンがアイルランドに勝てると思っていなかったので、嬉しい大誤算ですわ。最初は絶対に無理やと思っていたけど、試合が進むにつれて“あれ、あれ……、イケるんちゃうか!?”となった。古い先輩として『ホンマようやった、よう頑張った』との思いです」──“伝説の日本代表センター”と呼ばれた男は、後輩たちの偉業をこう褒め称えた。
熱戦が続くラグビーワールドカップ日本大会。9月28日には日本が優勝候補のアイルランドを19-12で撃破して、国中が大騒ぎとなった。喧騒のなかで驚きと喜びをかみしめるのは、元ラグビー日本代表主将の横井章氏(78)だ。
今から50年以上前、1968年のニュージーランド遠征。闘将・大西鐵之祐(故人)が率いたジャパンは同国の23歳未満代表である強豪オールブラックス・ジュニアを23-19で破って世界を驚かせた。
現代表で最も小さい田中史朗選手より2センチ低い身長164センチの横井氏は、この試合でバックスの要であるセンターとして縦横無尽にグランドを駆け回り、1トライ4アシストという大車輪の活躍でジャパンを歴史的勝利に導いた。
攻撃時は小さな身体にボールを抱えるように大柄な相手の懐に飛び込み、ギリギリの間合いで絶妙のパスを味方に放る。防御時は弾丸のように鋭い出足で間隔を詰め、敵の攻撃を寸断する。体格のハンデを敏捷性と頭脳で補い、確かな技術と勤勉さをミックスして勝負をかけた横井氏のプレーは、ラグビー王国ニュージーランドの目の肥えた観客を魅了した。
「体が小さくて足が遅い日本人が世界で勝つために、接近戦と前に出るディフェンスを編み出したんや。当時としては世界最先端のプレーが現地を驚かせ、試合翌日の現地紙は『横井がジュニアにラグビーをレッスンした』と一面で報じました」(横井氏)
あれから長い時間が過ぎた。1995年のワールドカップでニュージーランドに145-17の惨敗を喫するなどの暗黒時代を経て、2019年のジャパンは世界2位のアイルランド相手に歴史的な勝利を収めた。