たとえば、アナリストが探り出した相手打者の傾向を捕手だけが理解して、リードに生かすのではない。コーチはもちろん、監督や投手もそのデータを把握している。文字通りチーム全体で情報を共有しているわけだ。
「たとえば、日本シリーズの時でも、『このバッターの初球は、何から入る?』『このバッターを2ストライクまで追い込んだけど、決め球は?』となった時、ピッチャー、キャッチャー、監督、コーチ、データ班で『せーの!』で答えを出し合ったら、ぴったり一致したと思いますよ」
工藤公康監督が「データを重視するタイプ」で、データに明るい点も、ホークスが短期決戦に強い要因の一つだろう。
「毎試合前に首脳陣とデータに関するミーティングを行なったのですが、こちら側から『こういう傾向が……』と示したとき、監督は『うん、そうだろうね』と、既に頭に入っているような反応でしたね。いつ寝ているのか(笑い)」
ただ、こうして分析した対戦相手のデータを生かす上で最も大切なことは、「まずは自分を知ること」だという。
「極端な例を出すと、相手バッターがフォークボールに弱い傾向があったとしても、こちらのピッチャーの持ち球にフォークボールがなかったら意味がありません。では、どうするのか? 代用できる球種はあるのか? また、たとえフォークボールを持っていたとしても、最近調子が良くなく、抜けることが多いので、あえて使わない方がいいのではないか……そういうところまで、データ・情報を共有してこそ、有効に活用できるのだと思います。孫子の兵法ではありませんが、『敵を知り己を知れば百戦殆うからず』ですね。その精神が徹底されているのが、ウチのデータ戦略の一番の強みだし、日本シリーズでの強さにもつながったんだと思います」
単純にデータがあればチームが強くなるわけではない。選手たちが、データを生かしたプレーを実現してこそ試合に勝つことができるのだ。では、その手助けのために必要な環境とは──データ分析チームは、そこまで理解した上で情報共有の概念を導入している。ホークスの黄金期は、これからも続くだろう。
◆取材・文/田中周治