ヤクザの抗争事件は、常に現場付近で怖いもの見たさの野次馬的関心を惹きつける。4年以上にわたる山口組分裂抗争でも、これまではそうだった。だが、今回は違う。その恐怖が、自分の間近に迫ったら、市民は息を潜めるほかない。この抗争は、ついにその危険水域を越えてしまった。フリーライターの鈴木智彦氏が現場の様子をリポートする。
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11月27日午後5時過ぎ、兵庫県尼崎市の商店街に自動小銃の銃声が鳴り響いた。戦争さながらにアサルトライフルの掃射を浴び、冷たいアスファルトに昏倒したのは、神戸山口組幹部で、三代目古川組の古川恵一総裁(享年59)だった。
「犯行に使用されたのは米兵等が使う軍用自動小銃だった。顔や腹などを撃たれ、現場には十数発の薬莢があった。ほぼ即死だったでしょう。現場で目撃者のインタビューが撮れたのですが、『(暴力団の報復が)怖いので映像や音声は使わないでくれ』とお願いされお蔵入りになってしまった。住民は本当に怯えていた」(地元テレビ局社会部記者)
通行人が巻き添えになる可能性は十分にあった。惨劇の現場になったのは、商店街のただ中、古川総裁の親族が経営する焼き肉店の前だったからだ。当日深夜、現場を訪れると、一帯がブルーシートで覆われ、店に面する全ての道路に規制線が張られていた。
この焼き肉店は阪神尼崎駅から500メートルほどの距離で、出屋敷駅に続くアーケードの一本南側にある。飲食店の口コミサイトに店名は掲載されているが口コミ・評価は一切なく、地元では隣接する居酒屋とともに「ヤクザの関係店」として有名だった。近くの飲食店に勤務する20代女性も、家族から気をつけるよう再三いわれていたという。
「『あの店には行ってはいけない』と注意されていたけど、こんな事件になるとは想像してなかった」
地元では有名な“ワケあり店”とはいえ、商店街には多くの飲食店や商店がある。銃撃事件が発生した時間帯は、買い物客でごった返しており、銃声を耳にした住民も多数いた。