5か月以上続く香港の騒乱。当初、平和的に始まった市民によるデモは、いつしか、街の破壊を伴う警察との暴力的な衝突にシフト。いっぽう、11月下旬の区議会(地方議会)議員選挙では民主派が圧勝し、市民は体制側にノーを突きつけた。近著『もっとさいはての中国』が話題のルポライター安田峰俊氏が、デモと政治の嵐に揺れる香港からレポートする。
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選挙はすごい。ある社会で意見が大きく分かれる問題について市民がいずれを支持するかの答えが、1人1票の投票結果によって一気に可視化されるからだ。それなりの透明性と公平性が確保された選挙であれば、こうして示された「民意」は第三者に対しても強い説得力を持つ。
去る11月24日、激しい反政府デモの渦中にある香港で行われた区議会議員選挙もそんな出来事のひとつだった。投票率は過去最高の71.23%にのぼり、デモに肯定的な民主派系の候補者が定数452議席のうち約85%の議席を獲得したのだ。香港の区議会選は小選挙区制なので、実際の得票率は民主派系が53%、体制側勢力の建制派系が42%と比較的拮抗していたが、「デモ支持」の民意が明確に示されたことは間違いない。
周知の通り、香港では逃亡犯条例改正案への反対運動をきっかけに、今年6月から大規模な抗議運動が本格化した。デモの主張は7月に入ると条例案反対よりも政治の民主化や警察の暴力行為への監督強化を訴えるものが主眼になり、警察側の鎮圧が激化した8月末ごろからは、「勇武派」と呼ばれる一部の過激な勢力が香港地下鉄の駅舎や「親中的」とみなされた商店を破壊するなどの荒っぽい行動が目立つようになっていた。
長引く政治混乱と都市機能のマヒによる影響は深刻で、香港の7~9月のGDPは前年比2.9%減を記録、10年ぶりの大幅な景気後退局面を迎えている。世論は大きく割れ、親政府(≒親中国)的な報道が多い旧来のメディアに多く触れる年配層と、デモを支持するネットメディアやSNSで情報を得ている若者層の間で、深刻な社会分断が起きていることもしばしば報じられてきた。
ちなみに、世論がデモを支持していることは以前から指摘されてきた。香港大学や香港中文大学による定期的な世論調査では、11月中旬時点でも回答者の6割5分~7割程度はデモに好意的とされる結果が出ているからだ。だが、学術調査とはいえ民間機関による1000人程度を対象にした調査の結果には多少の疑わしさもあった。ゆえに、ほぼ全市民が投票可能な区議選において民主派が圧勝した今回の選挙結果は、圧倒的に強い説得力を持つことになった。