完全に「デモ寄り」の姿勢を明確にした湾仔にあるタピオカ屋。世論の分断が続く香港では、多数派である「デモ支持」を明確にすることで売り上げを伸ばそうとするたくましい店舗も出はじめている(11月25日、筆者撮影)

 革命運動のいちばんダメなパターンは暴力それ自体が運動の目的化してしまうことだが、そうならなくても、普通はせいぜい暴力を直接の手段にして、自分たちの要求の実現を図る例が多い。だが、今回の香港デモの場合、どうやら暴力を行使して街を破壊する行為を、政府側との交渉カードにつかっている気配がある。

 政府側がおとなしく言うことを聞くなら抗議運動を起こさないし、警察が鎮圧しなければ抗議は平和的なデモや集会のレベルにとどめる。ただし、警察が催涙弾などを使う過激な行動を取るならば、デモ隊側も道義的によくない行動にあえてゴーを出して政府を苦しめていく。暴れられるのが嫌ならば、政府はデモ側の要求を飲むか、せめて警察の鎮圧をやらせるなという脅しをかけているわけだ。

 デモ開始から5か月以上が経った現在も、香港のデモ隊がこれだけの理性的な判断力とコントロール力をまだ維持していたのは正直に言って意外だった。一部の勇武派による目に余るような暴力行為は、ほとんど制御不能な暴動に見えて、戦略的な目的がかなりの程度まで意識されていたのだ。

 さておき、混乱が続く香港に訪れた約10日ほどの平和は再び破られた。デモ隊と香港警察の感情的な対立は激しく、いちど衝突が再開されれば後は再び激化していくしかない。6月に幕を開けた香港の「長く苦しい夏」は、年越しが必至の情勢だ。

【プロフィール】やすだ・みねとし/ルポライター。1982年滋賀県生まれ。立命館大学文学部卒業後、広島大学大学院文学研究科修了(専攻は中国近現代史)。著書に、大宅賞と城山三郎賞をW受賞した『八九六四 「天安門事件」は再び起きるか』(KADOKAWA刊)、『さいはての中国』(小学館新書)、『性と欲望の中国』(文春新書)など。最新刊『もっとさいはての中国』(小学館新書)が好評発売中。

 

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