地道に努力をすれば、せめて自分の親と同じくらいには落ち着いた生活を送れる大人になれると思っていたのに、気付けば色々なことがうまくいっていない。そんなわだかまりを抱えさせられた30~40代の就職氷河期世代に対し、まだやり直せるという期待をこめて「しくじり世代」と名付けたのは、近著『ルポ 京アニを燃やした男』が話題の日野百草氏。日野氏が今回、取り上げるのは、地元の図書館で非正規の司書として働く43歳男性だ。大学卒業後、本に関わる仕事をしたいと様々な職を経ながら、一貫して学歴にこだわる43歳の本音をレポートする。
* * *
「僕は大学受験の勝者だったはずです。いまの時代に生まれてたら大企業も公務員も思うがままのはずだったのに、生まれた時代だけでこんな目に遭うのってあんまりじゃないですか?」
君野直也さん(仮名・43歳)は酔いが回ってきたのか、いい感じに愚痴りだした。新宿の筆者が贔屓にする飲み屋、君野さんとは彼がある編集プロダクションに勤めていた時代に何度か来ている。
「とにかく本が好きなんです。本に関わる仕事がしたかった」
君野さんは編プロに務める前は書店員をしていた。編プロは1年で退職、現在は某市立図書館で長年、1年更新の非正規司書をしている。
「大学卒業時は就職氷河期真っ只中でした。私のように国公立(大学)を出ている人でも就職浪人や非正規職、あまりに理想とかけ離れた会社などに就職せざるを得ない状況でした。悪夢の始まりです」
北関東の名門公立高校に入学した君野さんは人一倍勉強家だ。何時間勉強しても苦にならなかったし、勉強が楽しかったと言う。その意味ではがんばり屋さんである。
「小中と学年で上位でした。うちは母子家庭で裕福ではなかったから、私立なんて行けない。高校受験は滑り止めの私立も受けましたが学費のいらない特待生としてでした。でもそこは地元でも評判の悪い私立高校で、近所で自転車が盗まれればまず疑われて校内の自転車置き場を捜索されるような学校です。絶対行きたくなかった。意地でも公立高校に合格しようと努力しました。母親も金が無いなりに応援してくれました」