──前編でもお話いただいた、自己の「認識改造」へとつながっていくわけですね。
町田:酒を飲むと、楽しみや幸福感が底上げされるんですよ。同時に、「向き合う」ということがなくなります。この本では、そもそも人生は楽しいものなのか、幸福になる権利があるのか、ということに向き合いました。だから、禁酒や断酒したい人の役にも立つかもしれないけど、人間が生きるとはどういうことかを考える本になっています。
◆「悪かった」と言うしかない
──お酒を飲むという義務がなくなった今、空いた時間は何をされていますか?
町田:かつては仕事と酒の2つが義務だったとはいえ、他にやるべきことはいろいろとあったわけです。家の雑事とか、動物の世話とか、郵便局に行く用事とか、生活しているとありますよね。でもそれは、酒を飲む前の雑事にすぎなかった。めんどくさいことの積み重ねで、できるだけ速く終わらせるべきことだった。
だけど酒を飲むという義務がなくなると、それらが雑事ではなくなってきたんです。急いでやる必要がないから、ゆっくりやる。すると、自然に見えてくるものがある。時に楽しくなってくる。草が生えたとか、雨の匂いとかに喜んだりするようになってきたんです。
例えば新幹線で東京から大阪へ移動すると、景色はほとんど見えないですよね。ところが鈍行で行って、途中で一泊なんかすると、見えてくるものがあるじゃないですか。時には醜悪なものを見るかもしれないけれど、半分は面白かったりもする。最初から目指したわけではないけれど、そういうちょっとした日常の楽しみが、酒をやめたことの思わぬ余禄として付いてきました。