1972年総選挙で当選者の名前の上にバラの花を着ける自民党の田中角栄総裁(中央)(時事通信フォト)

1972年総選挙で当選者の名前の上にバラの花を着ける自民党の田中角栄総裁(中央・時事通信フォト)

「じつはね、市議会議員になろうと思うんだ。いま地方議会はどこも定員割れでなり手がいない。無所属じゃ大変だけど、党によってはすぐ議員になれる」

 なるほどそうかもしれない。会社で40代は中堅であり、残るか去るかの選別対象だが、政治の世界で40代は若手どころかひよっこだ。落選が数人、下手すると全員当選どころか、なり手に四苦八苦している地方自治体なら、若い人は当選する可能性が高いし、現にそんな40代新人議員も多い。もっとも主要政党だとそれなりに厳しい審査もあるだろうが、彼は一流大学から一流企業、昔からとても頭が良くてリーダー然としている。それでいて案外抜けているところも魅力だ。目のつけどころを褒め、話を膨らませてみると、意外な名前が返ってきた。

「Mって知ってます?」

 私はそのMを知っていた。ネット界隈で古くからお騒がせの人物だが、懐かしい名だ。

「彼が市議会議員選挙で次点になったんです」

 言われてスマホで検索すると、たしかに次点に名前がある。

「Mが次点なんてびっくりだろ? ぶっちゃけ若けりゃ当選しちゃうんじゃないか、そう考えたんだ」

 確かにそうかもしれない。彼の言うMの市は過疎ではなくそれなりに大きな市だ。親が議員といった二世候補でもない。しかし、聞きかじりの知識からだが、市町村議員のなり手の少なさは議員報酬が安いことにあるのは不安ではないのかと聞いた。地方議員は報酬が低いだけでなく、必要経費も持ち出しになることが多いとも言われている。規模が小さい町村議会だと政務活動費もないらしい。報酬が高い市の選挙は自ずと主要都市に限られるため激戦となる。

「安いけど、独身だからなんとかなるよ」

 単身なら、まったく食えないということもなさそうだ。選挙費用も貯金があるし、親も応援してくれているという。息子が市議会議員になれば鼻も高いだろう。だがやっぱりいちばん聞きたいのは、市議会議員になって何がしたいかだ。それを質問したとたん、待ってましたとばかり、田中さんは口を開いた。

「日本を変えたいんだ」

 私は少し違和感を覚えた。別に市議会議員が日本国を思うのは構わないが。

「正直、市議会は踏み台なんだ。とにかく当選しそうな市なら構わない」

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