【著者に訊け】宇佐美まこと氏/『黒鳥の湖』/祥伝社/1700円+税
昔、理科の実験で驚いた憶えがある。赤、青、黄と、色は重ねるほど黒に近づき、かたや光は重ねれば重ねるほど色を失い、まっさらで白々した像を結ぶことに。
「あと、白は何か混ざるとすぐ濁るけれど、黒は何が混ざっても黒は黒なんですよね。私自身は断然、白より黒派。その黒がどんな成分でできているのか、過去や来歴に興味津々なんです」
宇佐美まこと氏の最新作『黒鳥の湖』も、白ならぬ黒だけに侮れない。物語は、若い女性を拉致し、衣服や体の一部を家族に送り付けた上で殺す連続殺人鬼の恐怖と、美しい妻も娘も事業も全て手に入れた不動産会社社長〈財前彰太〉の幸福な日常とが一見無関係に並走する。だが、次第にその接点に見え隠れする人々の過去や闇や傷が、読む者の心を嫌というほどざわつかせるのだ。
実は彰太が〈由布子〉と結婚し、麻布十番商店街で貴金属店を営む伯父〈文雄〉の遺産を相続したこと自体、醜い嘘と悪意の産物だった。しかも連日世間を騒がせる〈肌身フェチの殺人者〉の卑劣な手口に彼は思うのだ。〈あまりに似すぎている、あの時に聞いた話と──〉。
作家としての始点は怪談。それも第1回『幽』怪談文学賞の応募要項を見るなり、「私の賞だ」と確信したというほど、怖い話は大好物。