新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、在宅勤務を可能にするテレワークを実施する企業が増えている。国が全国の小中高校の一斉休校を要請したため、大手企業を中心にその動きはさらに広がりを見せている。しかし、今回の経験を得て、日本企業に在宅勤務の形態が根付くかというと、そう簡単ではなさそうだ。組織論に詳しい同志社大学政策学部教授の太田肇氏が、在宅勤務普及の前に立ちはだかる3つの「壁」を指摘する。
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新型コロナウイルス対策の一環として、大企業を中心にテレワークを取り入れる動きが広がっている。在宅勤務などテレワークは感染防止対策として有効なだけでなく、災害時への備え、通勤混雑の緩和、それに子育てをはじめワークライフバランスの推進といったさまざまな効果が期待されている。そのため、これを機にわが国でもテレワークが定着するのではないかと期待する人も多い。
果たして、これをきっかけに日本でもテレワークが根付くだろうか? 私はかなり懐疑的だ。テレワーク普及の前にいくつもの壁があるからだ。それを乗り越えない限り、震災の時と同じように一時的な“緊急避難”で終わってしまう。
では、その「壁」とは何か? 第1にあげられるのは「技術の壁」だ。
確かに高速大容量の光ファイバーなどIT(情報通信技術)の発達により、自宅などでも仕事ができる技術的な環境は整ってきた。ノートパソコン一台あればこなせるような仕事は少なくない。
ただ、それでもセキュリティの問題とか、機器や通信費など費用の問題、それに非正社員が社内のネットワークには入れないといった問題は残る。また欧米などと違って自宅の近くにはサテライトオフィスも少ないので、自宅に仕事をする場所がない人は困ってしまう。
第2に、「仕事の壁」があげられる。
欧米では一人ひとりの職務が明確に決められている。またオフィスも、一人ひとりのデスクは仕切りで分けられている。そのため会社で仕事をしようが、外で仕事をしようが大差はない。
それに対し日本企業では個人の分担はかなり曖昧で、課や係といった集団で行う仕事が大きな部分を占めている。そのため、同じ職場にいないと一緒に事務作業をしたり、他人の仕事を手伝ったりするのに不都合が生じる。次々に飛び込んでくる仕事や突発的な業務を、誰がどう処理するかといった問題も残る。