人事評価の問題もある。わが国では営業や研究開発といった一部の仕事を除き、仕事の成果よりプロセス、とりわけ態度や行動を重視する。これらは部下が目の前にいて日常的に観察できることを前提にしている。したがって仕事ぶりを観察できなければ、どう評価してよいか分からなくなってしまう。部下にとっては、頑張っている姿をアピールできないので戸惑うかもしれない。
これらの問題を克服しなければ、社員の間に不公平感や不満が生じる。制度の隙を突いて勝手な行動をとる者も出てこないとは限らない。当分は非常時だからと我慢したり、問題を棚上げしたりしていても、長期化するにつれてだんだんと表面化し、社員のモチベーションや生産性にも響いてくるだろう。
◆最大の壁は「人」
きわめて楽観的に考えれば、これらの壁は工夫次第で乗り越えられるかもしれない。しかし、実はもう一つの壁がある。それは「人の壁」であり、「人の壁」は見えないだけにある意味でもっとも克服するのが難しい。
日本の会社や職場は単なる仕事をするだけの場所ではなく、一種の共同体でもある。その中で人びとは空気を共有し、日常の何気ない会話やコミュニケーションを通してつながりを確認したり、互いに認め合ったりしている。
ところがテレワークだと、それができない。いくらスカイプやテレビ会議を利用しても、仕事と無関係な雑談はできないし、画面に映らない空気までは伝わらない。スマホでチャット機能を利用しても当然、限界がある。
欧米などでは家族や仕事以外の仲間との人間関係で、そうした日常的なコミュニケーションが交わされ、さまざまな欲求を満たしてきた一方、わが国では、会社以外にコミュニティが形成されていない。今まで寝るときだけ家に帰っていた人が一日中家にいると、家族は困惑する。地域のつながりや趣味仲間のようなネットワークもない。テレワークが長期にわたると、だんだん家族との関係がぎくしゃくし、本人も周囲もストレスを感じるようになるのではなかろうか。