3月10日、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』が萩本欽一を特集した。この日はコント55号の相棒である坂上二郎の命日であり、萩本が芸能生活を振り返る中で坂上の名前を上げ、映像も数回に渡って流れた。
しかし、重点的に取り上げてもおかしくない命日という事実には、ナレーションを含め一切、触れなかった。どうしてなのだろうか――。
萩本は78歳を目前に控えた昨年4月、駒澤大学を自主退学。「あと2年しか笑いをできないから」と理由を語っていた。
その言葉を実践するように、自身が浅草修業時代に学んだ軽演劇の文化を残すため、昨年9月から『欽ちゃん公開オーディション』を毎月行ない、後進の育成に励んでいる。
オーディションといっても、芸人がネタ見せをするわけではない。前方に座る参加者が萩本に指名されて舞台に立ち、「消火に行く時の消防士」「臭い靴下の匂いを嗅いだ時のリアクション」などのお題をこなす。
演技の始まりから終わりまでをじっくり見た上で、萩本はヒントを与える。同じテーマで2時間近く続けることもあり、坂上二郎のような“普通に動いているだけなのに、なんだか可笑しい”という軽演劇のできるコメディアンを育てたい萩本の執念を感じさせる。
オーディションの合間には、示唆に富む言葉が随所に飛び出す。
「“近い”はダメ。“遠い”をする。それが成功につながる」
「粋な人は、現実をそのまま言葉にしない」
「お客さんが察してくれて、初めて成立する」