観客として足を運ぶ私の知る限り、昨年11月からNHKのカメラ機材が入り、1日4時間半にも及ぶオーディションを撮影していた。オンエアの尺は数分しかないはずで1、2回撮れば十分だろう。4時間半のほとんどは、参加者が悪戦苦闘している。回にもよるが、芸人が爆笑の連続を生む展開はなかなか訪れない。
そんな状況下で、『プロフェッショナル』のカメラは少なくとも6回以上は入っていたと思う。つまり、オーディションの素材だけでも27時間以上あったことになる。
現場に行けば行くほど、テープの量は増え、ほんの数分の尺にどう収めるか頭を悩ませることになる。しかし、5回目まで何も起こらなくても、6回目に偶発的な出来事が生まれるかもしれない。
粘った結果、萩本が疲労から舞台に座り込むシーンを撮り、放送された。スタッフはこの場面を狙っていたわけではないだろう。ただ、萩本と同じように執念が宿っていたからこそ、“誰も見たことのない映像”に遭遇できたのだ。
スタッフはオーディションのみならず、NHK-BS『欽ちゃんのアドリブで笑(ショー)』の打ち合わせや番組収録、独自ロケやインタビューなどで幾度となく萩本と接している。何回も会えば、対象者の考え方や人となりがおぼろげながらも浮かび上がってくる。『視聴率100%男』と呼ばれた人物のテレビに対する心構えを知ることにもなる。
今回、二郎さんの命日に放送しながらも、番組はそのことに一切触れなかった。欽ちゃんと何十時間も相対することで、大袈裟に煽りがちな今のテレビにない“粋”の大切さを感じ取り、オンエアに生かしたのだと思う。
ネット上には、放送前から「二郎さんの命日」という事実を指摘する声が上がっていた。視聴者は言われなくても、この日の意味を察していた。そこに、余計な言葉などいらない。番組は、直接的ではなく間接的な表現で坂上二郎を敬った。