好きなアイドルなど有名人が出演したテレビ番組や雑誌などを片端からチェックするだけでなく、コンサートツアーに何度も足を運び、イベントもこまめに通うようなファンの行動を「追っかけ」という。仕事や人生がいまひとつうまくいかないと鬱屈する団塊ジュニアやポスト団塊ジュニアを「しくじり世代」と名付けたのは、『ルポ 京アニを燃やした男』著者の日野百草氏。アイドルの「追っかけ」に全力で取り組むため結婚しないと宣言していた42歳女性が結婚すると決意したのはなぜかについて、日野氏がレポートする。
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「結婚しないとか子どもいらないとか、撤回します」
舌っ足らずな口調ではにかみながらコーヒーカップのふちをなぞる後藤裕子さん(42歳・独身)。「しくじり世代」のその先として、子どものいない団塊ジュニアの取材で知り合った彼女だが、新型コロナウイルス騒動のさなか、相談に乗って欲しいと連絡があり、彼女の住む中目黒で落ち合った。駅前の再開発地区にあるゲートタウンは土曜日の日中だというのに閑散としている。みなマスク姿。ゲートタウン内のカフェも私たち以外お客はまばらで、店員も暇そうだ。
「だから、前に言ったことと違っちゃって、ごめんなさい」
以前、後藤さんは好きなアイドルグループの追っかけがやめられないので結婚する気もないし、子どもを作る気もないと言っていた。ファン歴20年の筋金入りだ。その時は「生涯独身」と言っていたが、どうしたことか。
「私、仕事がなくなっちゃっうかもなんです。さすがに今回のコロナはつらいです」
後藤さんは非正規のアルバイトで生活している。仕事内容はコールセンターのテレフォンアポインター。以前は官公庁や大手商社の事務をやっていたこともあるし、若いころはイベントコンパニオンもやっていた。
「コンパニオンと言っても私チビなんで、モーターショウとか華やかなキャンギャルじゃなくて、街でタバコを配ったり勧めたり、家電量販店で携帯電話のキャンペーンしたりとか」
昔はタバコ会社のデザインをあしらった制服のコンパニオンがタバコを配ったりしていた。またスマホでなく携帯電話というのも時代だ。後藤さんも団塊ジュニアの女性として、1990年代のバブル崩壊とまだまだ社会が女性に理解のない時代を生き抜いてきたサバイバーのひとりだ。
「化粧品の美容部員もしました。ガールズバーのアルバイトもしたことがあります。ぜんぜん“ガール”じゃなかったけど(笑)」