競馬紙関係者の友人は3連複専門。レースの面白さは馬券的に一番だと言う。5頭絞り込みでの買い目は6通り。4角を回ってさあ直線、目当ての2頭が競っている。そこに、もう1頭が内側からスルスルと伸びてきた。いいぞいいぞ!
ところが買い目にない馬が大外からやってくるじゃないの。思わず「くるな!」と叫ぶ。さらにその外から目当てのもう1頭がグイグイ迫る。「そっちでもいい! こい! 飛んでこい!」。「くるな」と「こい」の脳内サスペンス。そしてゴール。3着争いが微妙で、余計なのが絡んでいたら実にシビれる。
数秒間の脳内大活劇である。同じレースなのに馬券の種類によってエンターテインメント性がまるで変わってくるのだった。
さて、大活劇を満喫したいが中毒はコワイ。先の書は対策を教える。単純な反復動作が脳の炎症を鎮めるという。家事、料理など昔は日常にあふれていたものが、便利さの追求で少なくなった。思えば、どのスポーツにもある基本動作(野球や剣道の素振り、相撲の四股などなど)はそういった効能もあった。現代こそ脳を守らなければ。
歩くことでいい。ただし、新聞を読みながらはNG。姿勢をただして踏み出す足に集中する。馬券が的中したらスクワット(大学時代に死ぬほどやった!)。回数はその時に決める。競馬場からの帰路、腿がパンパンになっていれば言うことなし。楽しいスクワットなんて信じられない!
●すどう・やすたか 1999年、小説新潮長編新人賞を受賞して作家デビュー。調教助手を主人公にした『リボンステークス』の他、アメリカンフットボール、相撲、マラソンなど主にスポーツ小説を中心に発表してきた。「JRA重賞年鑑」にも毎年執筆。
※週刊ポスト2020年4月10日号